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大分地方裁判所 昭和54年(行ウ)4号 判決 1985年3月20日

大分県日田市竹田新町二番一〇号

原告

佐藤三義

右訴訟代理人弁護士

山本草平

右訴訟復代理人弁護士

三井嘉雄

同市田島町二丁目七番一号

被告

日田税務署長

和気弘文

右指定代理人

辻井治

中尾重憲

宮本吉則

森武信義

立川忠一

小城雄宏

永田康昌

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和五〇年分の所得税につき、昭和五二年七月七日なした更正処分のうち、分離課税の土地等の事業所得金額を金六八二三万四八六八円とする更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、いずれも異議決定処分で一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、法定期限(昭和五一年三月一五日)内に昭和五〇年分の所得につき、別紙(一)課税処分の経緯(以下「処分表」という。)の「確定申告額」欄記載のとおりの数額により確定申告した。

これに対し、被告は昭和五二年七月七日付で、処分表の「更正額」欄記載のとおりの数額による更正及び過少申告加算税の賦課決定をなした。

これに対する原告の同年九月六日付異議申立に対して、被告は昭和五三年五月二二日付で、処分表の「異議決定額」欄記載のとおりの数額による異議決定をした。

これに対し、原告はさらに同年六月二二日国税不服審判所長に対して、審査請求をなしたが、同所長は原処分を相当として、昭和五四年四月一七日請求を棄却する裁決を行った。

2  しかし、右課税処分は、「分離課税の土地等の事業所得」は存在しないのに、存すると誤認してなされたもので、違法であるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は争う。

三  被告の主張

1  原告は宅地建物取引業を営む者であるが、原告の昭和五〇年分の所得のうち「分離課税の土地等の事業所得」は次のとおり六二〇〇万六二〇六円である。

2  主位的主張

(一) 収入金額 一億六三八五万円

(1) 別紙(二)物件目録1記載の土地(以下「栗山の土地」という。)を昭和五〇年八月二六日日田市農業協同組合(以下「農協」という。)に対して売却したことによる収入金一七五〇万円

(2) 同目録2ないし19記載の土地(以下「清岸寺の土地」という。)を農協に対して売却したことによる収入一億四六三五万円

(二) 取得原価 一億〇〇四四万六九六〇円

(1) 栗山の土地の取得原価 一二〇〇万円

(2) 清岸寺の土地の取得原価 八八四四万六九六〇円

(三) 諸経費 一三九万六八三四円

(1) 不動産取得税 三万五六四〇円

(2) 土地改良費 四万七五一〇円

(3) 測量費 四万七一五〇円

(4) 登記費用 三七万二七一〇円

(5) いわゆる値切費用 一四万三五七四円

(6) 地権者接待費 四五万円

(7) 仲介料 三〇万円

(8) 雑費 二五〇円

(四) 差引所得金額 六二〇〇万六二〇六円

3  予備的又は選択的主張

(一) 収入金額 一億七九〇〇万円

別紙(二)物件目録1ないし19記載の土地(以下「本件土地」という。)を昭和五〇年九月一六日日田市土地開発公社(以下「公社」という。)に売却したことによる売買代金一億七七〇〇万円及び代金遅延料として受領した二〇〇万円の合計一億七九〇〇万円

(二) 取得原価 一億〇〇四四万六九六〇円

前記三2(一)と同旨。

(三) 必要経費等 一六五四万六八三四円

(1) 諸経費 一三九万六八三四円

前記三2(三)と同旨。

(2) 借入金利息 一一九〇万五三〇〇円

農協からの融資に対する利息相当額

(3) 土地保有税 三二四万四七〇〇円

(四) 差引所得金額 六二〇〇万六二〇六円

4  その他の所得

原告は、昭和五〇年中に、事業所得として、七三万五七七〇円、山林所得として一万二五〇〇円の収入があった。

5  所得控除

原告の昭和五〇年分の所得から、基礎控除、配偶者控除等として、八一万八〇〇〇円を控除する。

以上によれば、原告の昭和五〇年分の所得、納税額及び過少申告加算税は、処分表の「異議決定額」欄(「裁決」欄と同じ)記載のとおりとなる。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実中、原告が宅地建物取引業を営んでいたことは認める。

2  同2のうち(一)(1)(2)の事実は否認し、(二)(1)の事実は認め、(二)(2)の事実は争い、(三)(1)ないし(8)の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

五  原告の主張

1  転売利益の帰属

農協は、清岸寺の土地に農産物の集荷場の建設計画(以下「本件事業計画」という。)を立て、そのために必要な土地の購入を意図していたが、この周辺土地はすべて農地のため、農協が農地を購入すること自体に問題があること、また農協が直接自ら購入に乗り出した場合、土地価格を大幅に釣り上げられるおそれがあることなどの理由から、農協に代って、第三者をして購入に当らせることが得策と考え、その結果、原告を農協のダミーとして右土地の購入にあたらせることにした。かくして、原告は農協から依頼され、土地購入代金は利息のつかない「仮払金」という形式で、その都度交付を受け、農協の計算において、ただ農協の手足となって、土地購入の仕事に従事したもので、原告に転売利益の帰属する余地はない。

なお、原告の報酬については、原告と農協との間で最終的に清算がなされた後、別途協議をすることになっていたものである。

2  三九一一万円の返還

原告は、清岸寺の土地取得について、農協との間で清算した結果、次のとおり三九一一万円を農協に返還しているから、同金額を所得金額から控除すべきである。

すなわち、

(一) 原告は農協から受領した仮払金の中から、土地造成工事費一七八九万五〇〇〇円、取付道路工事費六七八万円、橋梁工事費三二〇万円及び諸経費五七万五七〇〇円の合計二八四五万〇七〇〇円を農協に返還した。

(二) 「清岸寺の土地」のうち、原告の実弟訴外佐藤好男(以下「好男」という。)名義とした別紙(二)物件目録3、8、12、13、17、18記載の土地(以下「好男名義の土地」という。)及び同目録19記載の土地(以下「羽野兼市名義の土地」という。)は、本件事業計画が取り止めとなり、未だ登記手続上、農協の名義になっていなかったため、農協がその引取りを拒否した。そこで、原告は農協から受領した仮払金の中から好男名義の土地につき売主に対する既払金三〇〇万円、羽野兼市名義の土地につき同じく金七六五万九三〇〇円の合計金一〇六五万九三〇〇円を農協に返還した。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  転売利益の帰属について

そもそも農協の清岸寺の土地一帯の本件事業計画なるものは存在せず、右土地の取得は原告が建売住宅建築販売の目的で、専ら自己の利益を図るためになしたものである。

2  三九一一万円の返還について

否認する。返還金額及びその算出過程自体の趣旨が不明であるのみならず、返還自体真実に行われたものとは認められない。

第三証拠

本件訴訟記録中、書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  まず事実関係について判断する。

1  成立に争いのない甲第八号証の二ないし五、第一三号証、乙第一ないし第一五号証(いずれも原本の存在についても争いがない。)、第二五号証、第二七号証、第三〇号証の二ないし二〇、第三三号証、第四九ないし第五七号証、第六二号証、第六四号証、成立に争いのない乙第一六号証の原告名下の印影及び右乙第六二号証の公社代表者名下の印影を乙第六一号証、第六三号証の原告及び公社代表者名下の各印影と対照するとその印影はいずれも同一であることが肯認できるので、右の各印影は原告及び公社代表者の印章により、かつ、原告及び公社代表者の意思に基づき顕出されたものと推定されるから、真正に成立したものと推定できる乙第六一号証、第六三号証、証人松浦正已(第一、二回)、同塩川進(第一、二回)、同熊谷仙三郎、同荒川九州男(第一回)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告は、中央不動産の屋号で宅地建物取引業を営み、また一級建築士の資格を有していたため建築、設計、施行監理も業としていた者であるが、農協とは昭和四四年ころから融資を受ける関係にあり、組合長の訴外荒川九州男(在任期間昭和三六年一〇月から昭和四九年五月まで。以下「荒川」という。)とは親密な仲であった。

(二)  訴外栗山正典(以下「栗山」という。)は、農業のかたわら農協の理事を務めていたが、昭和四六年、急な資金の必要に迫られ、荒川に「栗山の土地」の売却の仲介を依頼したところ、同人はこれを原告に伝えて、購入するように勧めたことから、原告はこれに応じて、買い付けることにしたが、その資金については農協に資金の融通を依頼するほかなかった。

ところが、農協は、当時、五〇〇万円以上の貸出には応じない旨の規約が存したため、原告が正規の融資を求めてきても、応じられない状況であった。

そこで、原告は、農協の組合長で、懇意な荒川に対し、「栗山の土地」について、原告と農協との間に売買を仮装し、売買代金として「仮払金」名義で、資金を融通するように求め、荒川もこれを承諾した。

原告は、昭和四六年一二月四日栗山との間で、右土地について売買仮契約(乙第三号証)を結び、同月一六日農協との間で売買を仮装するために締結した一種の融資契約である土地売買予約契約(乙第一号証)に基づき、合計一七五〇万円の「仮払金」の交付を受けて、栗山に対し別紙(二)物件目録1の買入金額欄記載の金額一二〇〇万円を支払い、昭和四七年二月二八日原告名義の条件付所有権移転仮登記を了し、さらに農協に対して、担保として右土地を提供するため、同年三月二七日右仮登記を農協に移転する登記手続を了した。

(三)  原告は、「清岸寺の土地」附近に国道二一二号線玉川バイパスが通じることを知り、開発利益を見込んで、土地を買収し、建売住宅を建設、販売する計画を立て、それに必要な資金を前述の方法で農協から調達しようと考え、荒川に相談したところ、同人は確実に転売利益が見込まれることから、農協としてその資金を出すことを承諾した。

そこで、原告は、昭和四八年一月三一日農協との間で売買を仮装するため土地売買予約契約(乙第二号証)という形式で、一種の融資契約を締結した。

農協は、右融資契約に基づき、「清岸寺の土地」買付資金として、原告に対し、「仮払金」名義で次のとおり総額一億四六三五万円を融資したが、その融資については農協内部における正規の手続は行われず、組合長である荒川が独断でこれを行い、経理上は一時的な勘定科目である「仮払金」項目とした。

昭和四八年 一月三一日 一〇〇〇万円

同 年 二月一五日 一五〇〇万円

同 年 二月二八日 一〇〇〇万円

同 年 三月二〇日 三〇〇〇万円

同 年 四月一六日 二一〇〇万円

同 年 五月一七日 一六五〇万円

同 年 六月 五日 二五〇〇万円

同 年 一一月一三日 五〇〇万円

同 年 一一月二八日 一〇〇〇万円

昭和四九年 三月 六日 三八五万円

合計 一億四六三五万円

原告は右資金をもって、別紙(二)物件目録2ないし19の「売主」欄記載の所有者から、「契約年月日」欄記載の年月日に、「買入金額」欄記載の金額で、「清岸寺の土地」一八筆約一万七二一〇平方メートル(約五二一五坪)の農地を合計八八四四万六九六〇円で買い入れた。

原告は、右土地を買い入れた後、自己名義に条件付所有権移転仮登記ないし原告若しくは実弟の好男名義に所有権移転登記の各登記手続を別紙(三)登記推移表<2>ないし<19>記載のとおり了した。

その後、原告は、「清岸寺の土地」を売却するまで、農協に担保として提供するため、農協名義に所有権移転仮登記を了した(但し、羽野兼市名義の土地については登記手続を行っていない。)。

(四)  原告は、昭和四八年一一月七日最後の売主となった訴外羽野兼市から「羽野兼市名義の土地」を買い付けたが、その後、地価が高騰し、価格について、地主と折り合わず、また農協も多額の融資が問題視されるようになってきたため、これ以上の土地買付資金の融通は監査上の配慮から困難と判断して、資金の提供を拒絶したことから、原告の土地買付は、これ以上行うことはできなくなった。

農協は、正規の組合員でない原告に対し、「仮払金」という不明朗な手続で多額の融資を行ったため、農協中央会や大分県の監査において、右の点を指摘され、また荒川が昭和四九年五月に組合長を退任し、訴外竹田正人が組合長に就任したこともあり、同年後半から、原告に対し、早急に資金の返還を求めるようになった。

しかし、原告には、本件土地を他に転売する以外に右返済金を捻出する方法はなく、昭和四九年末ころから、前組合長の荒川や専務理事の訴外塩川進らが、公社に対し、バイパス用地のみでなく、本件土地全部の買い取りを求めて交渉を行った。

ところが、公社は右土地全部の買い入れを承諾したものの、原告が公社の買収価格坪二万九五〇〇円を不満とし、売却を拒否して、交渉の席を立ってしまった。

しかし、農協は、早急に資金の回収を計る必要に迫まられていたため、昭和四九年一二月二八日公社との間で、原告の有する本件土地を総額一億七七〇〇万円で売却する旨の契約を、原告に無断で締結した。

農協は、右契約を履行し、公社から速かに売却代金を取得するために、原告に対し、昭和五〇年初旬から、公社への登記手続をするように懇願したが、原告は買収価格、農協の対応等に対する不満から、これに応じようとせず、そのため農協は原告の要請で右契約を解除する旨の内容証明郵便を公社に送るに至った。

原告は、農協からの「仮払金」名義でなされた多額の融資について返済ができぬまま、かつ、当初の建売住宅建設、販売の計画も資金不足から実現されぬまま時を経過していくので、同年八月二六日農協の要請を受け入れ、本件土地を公社に売却し、早急に換金して、農協の資金回収に協力することにした。

原告は右同日、農協にその旨を伝えたうえ、売却代金の受領権を農協に与えたため、農協は公社に対し、原告が本件土地の売却を了承した旨を伝え、公社から同日保証金名義(乙第二三号証の三)で二〇〇万円の振込みを受け、これを原告に代って受領した。

そこで、原告は、公社との間で、農協と公社との売買契約が破棄されたことを前提として、本件土地について、昭和五〇年九月一六日、売買契約(乙第六一号証、第六三号証)を締結したが、登記簿上の名義が好男である土地については、原告の指示により、好男名義の契約書(乙第六二号証、第六四号証)を作成した。なお、大分県の事務処理手続上の配慮から、本件土地の内、バイパス用地については契約書の日付を同年一月六日に遡らせて契約書を作成した。

かくして、公社は、同年九月一七日付で、別紙(三)登記推移表記載のとおり、本件土地につき公社名義に所有権移転登記を了し、同年一一月一七日、原告から受領権を授与されている農協に対し、一億七七〇〇万円を支払った。

以上のとおり認められる。

2  なお、右認定に反する証拠は以下に説示するとおり、これを信用することはできない。

(一)  証人塩川進(第一、二回)、同松浦正已(第一、二回)、同荒川九州男(第一、二回)、原告本人(第一、二回)の各供述及び甲第一三号証、乙第一九号証、第二二号証の各記載中には、農協が集荷場を建設するため、その用地の取得を原告に委託したのであり、本件土地の買主は農協であって、原告は農協の手足となって行動したに過ぎない旨の供述及び記載部分がある。

しかし、前記乙第四九ないし第五七号証、成立に争いのない乙第五八号証の一ないし九及び証人塩川進(第一、二回)、同松浦正已(第一、二回)、同荒川九州男(第二回)の各証書中右供述部分を除くその余の部分によれば、栗山は昭和四六年当時、農協の理事であったが、本件土地に集荷場を建設する計画を全く知らず、また本件土地を原告に売却した売主らは農業を営む者で、農協と密接な関係を有するが、それらの者も右計画について全く知らず、さらに農協内部の決定機関である理事会等で右計画が承認されたこともないうえ、農協は本件土地とは別の日田市大字三和字原地五三七ないし五四一番、同所五三五番五の各土地上に集荷場を建設していることが認められる。

右事実によれば、農協が昭和四六年から昭和四八年にかけて本件事業計画を有していたとは考えられず、証人塩川進、同松浦正已、同荒川九州男の前記各供述部分及び甲第一三号証、乙第一九号証、第二二号証の前記各記載部分は、前組合長である荒川の不正融資を隠蔽する目的でなされたものとの疑念を払拭しえず、いずれも信用しえない。

また、証人荒川九州男の証言、原告本人尋問の結果によれば、農協は原告に対し、本件土地の買収に関し、事前に明確な仲介料等の報酬を支払う約束をしていないことが認められ、(原告本人は農協との間で現在なお清算関係は未了であると供述している)不動産取引業を営む者が、事前に明確な報酬の約束もなく、多大な労力と時間をかけて、広大な土地の買収活動を行うとは、考えられず、原告の右供述内容は不自然、不合理で信用しえない。

さらに、成立に争いのない乙第二五、二六号証、第三一号証ないし六、証人塩川進(第一、二回)、同松浦正已(第一、二回)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告が本件土地の買付けをほぼ終了した昭和四八年暮以降、公社との売買交渉のあった昭和四九年一二月ころまでの間、農協は原告に対し、本件土地の造成、農地法上の許可手続及び所有権移転登記手続を全く求めていないこと、原告は被告に対する所得税の昭和五〇年分確定申告において、本件土地の一部を、原告が所有していたことを前提として、その譲渡によって得た売買益を「雑所得」として申告し、その所得について租税特別措置法(但し、昭和五一年法第五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)による特別控除の適用を求めていることが認められる。

右事実によれば、農協が原告に委託した本件土地を買収したと考えることは、不自然、不合理であり、右同旨の前掲供述及び記載は信用できない。

(二)  乙第一、二号証(土地売買予約契約書)中には、農協が原告から坪二万五〇〇〇円で本件土地を買付ける旨の記載があり、また甲第六号証中には、土地造成費等の明細及び設計図の記載があって、原告本人の供述(第二回)中には、右記載は原告が農協のために行う工事内容と費用の明細である旨供述する部分があり、さらに証人塩川進(第一、二回)、同松浦正已(第一、二回)、同荒川九州男(第一、二回)の各供述中には、昭和四九年一二月二八日の時点において、本件土地は農協が取得したことを前提として、公社に売却した旨供述する部分がある。

しかし、前記二2(一)で説示したとおり、農協が集荷場を本件土地に造る計画はなく、その他本件土地を特に必要とする理由はなく、かつ、農協は原告に対し、本件土地を法律上所有権を取得できるように農地法上の許可申請手続及び造成工事により宅地化する等の要求を全くしておらず、また前記二1(四)で認定したとおり、農協は、公社との間で、本件土地を売り渡す旨の契約を締結した以後も、原告に対し、農協への所有権移転登記を求めず、公社への登記手続を懇願しているのであって、農協が原告から本件土地を取得したと考えることは不自然、不合理であって、右各供述は信用できず、かえって、右土地売買予約契約書(乙第一、二号証)は、原告が農協から正規の手続で融資を受けられぬため、売買を仮装した融資契約書であると推認しうるのである。

(三)  乙第一五号証(誓約書)中には、原告が農協に本件土地を売り渡した旨の記載があるが、その意味内容は判然とせず、かつ、証人塩川進の証言(第二回)によれば、農協も右誓約書(乙第一五号証)の内容を理解せずに原告のいうがままに記名捺印したものと認められ、右書証自体の意味についても不明な部分が多く、右書証の記載は信用しえない。

(四)  原告本人の供述(第二回)中には、原告が公社に対して、羽野兼市名義の土地及び好男名義の土地を売却していない旨供述する部分があるが、前記二1(四)認定のとおり、右各土地について、公社名義に所有権移転登記がなされており、原告がこの登記を不服として、公社を相手に訴訟等を提起したとする証拠もなく、右供述は信用しえない。

その他に、前記二1の認定事実を覆すに足る証拠はない。

3  以上の次第で、原告と農協間に本件土地の売買が行われたという被告の主位的主張は採用できず、原告と公社間に売買契約が締結されたと認めるべきであり、従って、転売利益の帰属がないという原告の主張は認められない。

三  そこで、前記二の認定事実を前提として、原告の所得について考察する。

1  原告が本件土地を売却して得た利益は、原告が不動産取引を業とする者であり、かつ、本件土地の取得目的も転売利益を得るためであったのであるから、所得税法二七条にいう事業所得と認められる。

2  次に、右所得は措置法二八条の六第一項に該当し、重課制度の適用があって分離課税とされる(なお、同条第二項三号に該当する総合課税にならないのは、右所得は本件土地約一万七二一〇平方メートルを譲渡したことにより得たものであるから、右条項同号により、その利益が右同条項四号イ、同法施行令一九条六ないし一〇項に基づいて算出した適正利益に等しいか、またはそれより少ない利益しか生じない場合に限って、総合課税になるところ、後記のとおり、右所得は六二〇〇万六二〇六円となり、前記二1認定の取得価格、譲渡原価、保有期間により算出した適正価格を超えるからであって、右所得は分離課税となる。)。

3  そこで、進んで所得金額等について判断する。

(一)  収入金額 一億七九〇〇万円

公社が、原告からの受領権限を与えられていた農協に支払った金額の合計は次のとおりである。

昭和五〇年 八月二六日 二〇〇万円 保証金

同 年一一月一七日 一億七七〇〇万円 売買代金

合計 一億七九〇〇万円

なお、原告が農協から右金額全額を受領した直接の証拠はないが、原告と農協との清算関係の問題であり、原告が農協に受領権限を与えている以上、右の点は収入額の算定において、無視しうるのであって、右金額の収入が原告に帰属したというべきである。

(二)  取得原価 一億〇〇四四万六九六〇円

次のとおり、(1)については当事者間に争いがなく、(2)については前記二1(三)で認定したとおりである。

(1) 栗山の土地 一二〇〇万円

(2) 清岸寺の土地 八八四四万六九六〇円

合計 一億〇〇四四万六九六〇円

(三)  必要経費 一六五四万六八三四円

(1) 諸経費 一三九万六八三四円

右金額については、当事者間に争いがない。

(2) 土地保有税 三二四万四七〇〇円

成立に争いのない乙第二一号証の三、第四五号証によれば、農協は、原告のために本件土地の土地保有税を合計三二四万四七〇〇円立替払いし、その後、原告との間で清算していることが認められ、右金額は必要経費と解される。

(3) 借入金利息 一一九〇万五三〇〇円

前記乙第四五号証によれば、農協は、「仮払金」名義で融資した一億六一八五万円について、一一九〇万五三〇〇円の利息を原告に支払ってもらったことにして、原告との融資関係を清算していることが認められる。

なお、証人塩川進の証言(第二回)によれば、農協は公社から土地代等一億七七〇〇万円を受け取った旨の領収証(乙第四五号証)を原告に渡したことがなく、被告が右領収証を本件訴訟の証拠として提出したことに対し、原告から抗議されたことが認められるが、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告は農協に対し、右利息分相当の金の返還請求をしていないことが認められるのであって、原告は、農協が右利息金をとることを、黙示に追認したものと認められる。

もっとも、前記乙第二一号証の三によれば、農協は昭和五〇年三月末日、本件土地に対する未収利息として一四九〇万円を計上しているが、証人熊谷仙三郎の証言によれば、「仮払金」名義の融資について、経理上、利息を計上しないと赤字になりそうなので、原告に無断で、全く請求する原因も意図もなく、帳簿に記載したことが認められるので、右記載の数字をもって、借入金利息を一四九〇万円とはなしえない。

そこで、右利息金を必要経費としうるかについて考察するに、前記二1認定のとおり、「仮払金」名義の資金は、本件土地買収に関して、直接使われたものであり、右資金及び利息金の各金額からして、右利息金一一九〇万五三〇〇円は、その金額をもって、本件土地の「取得に要した金額」と判断すべきである。

そして、右利息金の支払義務の発生及び支払が、本件土地の取得後に生じたものであっても、右利息金の支払と本件土地の取得との間に相当因果関係がある以上、右判断に消長を来たすものではない。

(四)  その他の控除

(1) 原告は、工事費及び佐藤好男・羽野兼市名義の土地代合計三九一一万円を農協に返還したとして、同額の控除を主張する。しかしながら、既に認定したとおり、「仮払金」は農協から原告への融資の実質を有するもので、造成工事がなされなかったからといって工事費分として原告に返還義務が発生するわけではなく、また佐藤好男・羽野兼市名義の土地についても、原告と公社間に売買契約が成立しているので、原告に売買代金の返還義務が発生するわけはない。

もっとも、前記乙第一五号証中には、右金額を返還すべき義務があるがごとき記載もあるが、前記二2(三)で設示したとおり、右証書のその記載部分は信用しがたく、また原告本人の供述(第一、二回)中にも、右返還義務の存するが如き供述があるが、他方証人熊谷仙三郎、同塩川進(第二回)の各証言及び原告本人尋問(第一回)の結果によれば、返還金は、原告が荒川に示唆されて本件課税問題を考慮し、自己所有の不動産を担保に農協から五四〇〇万円の融資を受け、その中から昭和五三年一〇月三一日三九一一万円を農協に返還したこと、しかし、農協としては返還金の性格が明確でなく、経理上の処理に迷ったが、結局昭和五三年一二月四日「雑収入」として計上したことが認められる。

右認定事実によれば、三九一一万円の返還金は課税所得金額計算上控除項目にはならないと解される。

(2) なお、前記乙第二五、二六号証、第三一号証の一ないし六によれば、原告は昭和五〇年分の確定申告において、国道二一二号線のバイパス用地として収用になったとして措置法三三条の四または三四条の二の適用を求めていることが認められるが、この点について原告の主張はないから考慮しない。

(五)  所得金額 六二〇〇万六二〇六円

前記二3(一)の収入金額一億七九〇〇万円から前記二3(二)及び(三)の取得原価一億〇〇四四万六九六〇円、必要経費一六五四万六八三四円を控除した差引所得金額は六二〇〇万六二〇六円となる。

(六)  所得税額及び過少申告加算税

被告の主張4、5の各事実は原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

そうすると、原告の総所得は七三万五七七〇円、山林所得は一万二五〇〇円、分離課税となる土地等の事業所得は六二〇〇万六二〇六円、所得控除額の合計は八一万八〇〇〇円となるから、総所得に対する課税は〇円となり、山林所得に対する課税は、所得税法八九条により一二〇〇円(百円未満切捨て、以下同じ。国税通則法一一九条一項)となり、右分離課税となる土地譲渡益に対する課税は、措置法三二条一項、所得税法三三条三項、八九条により三六四一万六七〇〇円となる。

したがって、原告は被告に対し、三六四一万七九〇〇円を納税額として申告すべきところ、当事者間に争いのない事実(請求原因1の事実)によれば、原告は昭和五〇年分の納税額を一六万二一〇〇円と申告しているから、その差額三六二五万五〇〇〇円(千円未満切捨て、国税通則法一一八条三項)が、加算税の基礎となる税額となるので、国税通則法六五条一項を適用してその五パーセントを乗じた一八一万二七〇〇円が加算税となる。

四  よって、右三の計算と同旨の本件更正処分及びこれに伴なう過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法であるから、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村健治 裁判官 白井博文 裁判官 西田育代司)

別紙(一)

課税処分の経緯

<省略>

(注) <11>過少申告加算税の基礎となる金額は、「各欄<10>の金額-確定申告額欄<10>」の金額である。

別紙(2)

物件目録

<省略>

別紙(三)

登記推移表

<省略>

(注) 所有権移転登記を「所有権」、所有権移転請求権仮登記を「仮登記」とそれぞれ略す。

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